

野菜に常在するリステリア属菌の実態調査とその殺菌方法の検証について
2025年1月5日
非加熱喫食食品(Ready To Eat)におけるリステリア属菌による食中毒の問題
国内流通している加工食品中のリステリア属菌を測定する機会は殆ど無いと思いますが、今後、チルド流通販売が進み、賞味期限が延長するに連れて、非常に大きな問題になると言われています。このリステリア属菌のうち、主にヒトへの病原性を持つ種はリステリア・モノサイトゲネスですが、本菌に高齢者、免疫不全者、乳幼児、妊婦などのハイリスクグループが感染した場合、骨髄炎、敗血症により、その致死率は20~30%と言われており、非常に危険な細菌でありながら、自然界に広く分布しており、実際、様々な食品から検出されるようです。また、日本国におけるリステリアの食中毒事例は、2001年のナチュラルチーズが原因食品と推定される事例1件のみとされてきましたが、国立感染症研究所のレポートでは、2021年の福岡市内で報告された感染事例疑いとして、そうざい(加熱せずに喫食可能なRTEのデリミート)を原因食品とするリステリア食中毒が報告されており、また食品安全委員会の評価書においても、年間200人(2011年)のリステリア症が発生していると病床数推計をしており、食品媒介リステリア感染症は、想像よりも多く発生している可能性が高いと考えられるようになってきました。これは、日本国の食事情として、非加熱喫食食品(RTE)が多く流通している事、とくに賞味期限が長い非加熱喫食食品(RTE)については、その保存期間中にリステリア・モノサイトゲネスが増殖し、発症菌量である、104/g以上にまで増殖し、発症させてしまう可能性が考えられます。なお、諸外国では、非加熱喫食食品(RTE)については、不検出/25gと言う様に、すでに検査基準の中に取り入れられています。(図1)
原料野菜中に常在しているリステリア属菌の実態調査
食品安全委員会の報告(2012年)では、野菜に常在しているリステリア・モノサイトゲネスの検出状況としては、もやし(18.2%)、かいわれ(0.6%)、ねぎ(1.4%)、漬物(6.7%)、一夜漬け(46.7%)であり、野菜中にリステリア・モノサイトゲネスが常在している事と、賞味期限が長い一夜漬けでは、増殖している傾向が見て取れます。そこで、実際に近隣スーパーで販売されている野菜からどの程度のリステリア属菌或いは、リステリア・モノサイトゲネスが検出されるのかの実態調査を実施してみました。(図2)
その結果、キュウリは2/2検体、水菜も1/2検体でリステリア・モノサイトゲネス推定陽性となり、確定試験までは行っていませんが、リステリア属菌はかなりの高確率で常在しているという事がわかりました。
亜塩素酸水製剤のリステリア属菌に対する殺菌効果について
リステリア属菌は殺菌剤への抵抗性を持つバイオフィルムと共に野菜に常在している為、殺菌効果が発揮しづらいと言う問題があります。また、リステリア属菌は70℃で1分程度の加熱で死滅しますが、リステリア感染症を引き起こすのはRTE食品であり、そもそも加熱殺菌する事は出来ません。そこで、各種薬剤耐性菌に殺菌効果が高い亜塩素酸水製剤を用いて、その殺菌効果を検証してみました。その結果、野菜に常在しているリステリア属菌に対しても、十分な殺菌効果が得られるという確認がとれました(図3)。ただし、他細菌(大腸菌群など)と比べますと、その殺菌効果はやや見劣りし、バイオフィルム形成菌としてのリステリア属菌の薬剤耐性はかなりの抵抗力を持つと言う事が判り、薬剤耐性菌に対する殺菌方法は、更なる検証が求められる結果でもありました。
リステリア属菌が好んで常在している野菜がある?
リステリア属菌は低温(-0.4℃~45℃)や酸性条件(pH4.4~9.4)、高い塩分濃度(11%以下)でも増殖できる点が特徴です。殆どのRTE食品がこの条件に当てはまっており、通性嫌気性菌である事から、真空パックは意味を持たず、温度管理や酸度の調整等では増殖を抑制させる事は難しい事が問題です。また、本検証でわかった事は、キャベツはリステリア属菌の常在菌数が非常に高いと言う事であり、偶然、今回の試験では、モノサイトゲネスは検出されませんでしたが、初めてリステリア感染症が確認されたのは、1981年、カナダのキャベツコールスローである事から考えてみましても、キャベツはリステリア属菌が常在しやすい可能性が高いと捉えています。また、多量のセレウス菌が常在している水菜にはリステリア属菌があまり常在しておらず、シュードモナス菌が常在しているキュウリも同様であり、野菜によって、常在している薬剤耐性菌が異なる可能性が高いと推察され、こちらも更なる検証が必要だと捉えています。いずれにせよ、リステリア属菌が多い野菜には、モノサイトゲネスが検出される可能性が高いと想定の上で、薬剤耐性菌に効果がある殺菌剤を用いて殺菌処理を施す必要があると考えます。また、その判定の際には、汚染指標菌として適切であろうと考えられているリステリア属菌の場合は、100 CFU/mL以下、リステリア・モノサイトゲネス推定陽性は、陰性(不検出)とするなど、ある一定の自主規格を定める必要があると考えており、またリステリア・モノサイトゲネス推定陽性の場合,「リステリア・モノ サイトゲネスの検査について」(食安発 1128 第2号)などを参考に確認試験を実施されることをおすすめいたします。
まとめ
野菜類にはバイオフィルムを形成する様々な薬剤耐性菌が常在しており、殺菌処理を施したとしても、思った様に低減できない原因になっている事がわかってきました。そして、今回のリステリア属菌は、主に牛豚などの腸管内に常在している細菌であり、これらの糞便によって汚染された農地や農業用水から野菜に付着するなど、汚染経路は一つに絞る事は出来ないようです。
以上の事から、野菜類には常にリステリア属菌が付着し、常在していると言う前提で取り扱う必要があるということを念頭に置くと共に、今後、チルド流通が進化し、賞味期限が更に延長されていく際には、これまで問題になっていなかったリステリア食中毒が顕在化してくる恐れがあり、今後、注意すべき細菌の1つであると考えます。