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日本酒における火落菌対策について
日本酒における火落菌対策について
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日本酒における火落菌対策について

2016年6月1日

日本酒と火落菌

人類の歴史と密接な関わりを持つお酒には、大きく分けて醸造酒(清酒、ビール、ワイン等)と、蒸留酒(ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、焼酎等)があり、各地の気候、各民族固有の文化や食事に合わせて発展してきましたが、世界で最もアルコール度数が高い醸造酒が清酒だということはあまり知られていません。これは同タンク内において糖化とアルコール発酵による並行複発酵技術の賜物であり、20度を超える原酒は複雑な清酒製造技術によって作られています。しかし、このような高いアルコール度数の中であっても増殖できる微生物は存在しており、それが火落菌と呼ばれる乳酸桿菌の一種なのです。そしてこれら微生物類が増殖し始めると“火落ち”という、清酒の白濁や異臭や異味の付加現象が現れ、清酒に悪影響を与えてしまいます。また、清酒の製造環境における火落菌は真性火落菌と火落性乳酸菌の2つに分けられており、真性火落菌はアルコール耐性が非常に強く、25度の原酒でも繁殖します。一方、火落性乳酸菌はアルコール耐性は15度程度ですが増殖スピードが速く、主に市販酒において火落ち現象を引き起こします。特に真性火落菌は殺菌剤に対する耐性が強く、あらゆる場所の空気中に漂っているため、呑みきり(検品)時に、タンク内に入り込むこともあるようです。

日本酒の製造工程と火落菌

清酒の製造工程は主に2段階に分かれており、原料米を発酵させ、貯蔵するまでの工程と、貯蔵した清酒を市販酒規格に合わせて調合し、瓶詰めしてから出荷するまでの工程があります。この工程中で、アルコールが25度程度でも増殖する真性火落菌は、原酒を貯蔵タンクで保管している間に増殖し、また、火落性乳酸菌は、アルコールが15度程度でしか繁殖できませんが、市販酒を販売している間や、購入後の保管中に増殖します。また、火落菌ではなくても乳酸桿菌全般は醸造環境で問題になることが多く、アルコールや酢を製造している環境下ではアルコールや酸に耐性がある微生物類が増殖しやすい条件が揃っています。よってこれら乳酸桿菌が異常増殖してしまうという問題も生じています。


火落菌と火入れ処理

清酒は非常にデリケートなお酒です。したがいまして、火落菌対策として、貯蔵前、出荷前と2回も火入れをすることは、技術が進歩したとは言え、繊細な清酒の風味を損ねてしまいます。特に、精米歩合が高い大吟醸や純米吟醸などの高品質な清酒は火入れによる劣化ダメージを出来るかぎり避ける必要があり、火入れだけに頼らない方法が求められています。

亜塩素酸水による火落菌対策

亜塩素酸水は平成25年に新規食品添加物として認可を受けた食品添加物:殺菌剤であり、芽胞を形成させた納豆菌の殺菌や、エンベローブを持たないウイルス類の消毒にその効果が期待されています。そこで、真性火落菌と火落性乳酸菌に対する殺菌効果を検証してみることにしました。まず、真性火落菌、火落性乳酸菌それぞれ4種類の菌に対して殺菌剤を5分間、10分間接触させ、混釈培養してその低減効果を確認してみました。このときの殺菌濃度は次亜塩素酸Naを基準とする遊離残留塩素濃度(酸化力)に合わせて比較したところ、特に真性火落菌が殺菌しづらいということがわかりました。また、亜塩素酸水区は、殺菌5分後で104個を陰性にまで滅菌することができ、次亜塩素酸Na区は殺菌5分後も103~104であり、ほとんど殺菌効果が見られていません。<表1>
また、殺菌時間を10分にしますと殺菌効果が認められ、真性火落菌の殺菌には、おおよそ10分程度の接触時間が必要になるということがわかりました。なお、真性火落菌が増殖する製造工程としましては、原酒を貯蔵する段階が最も多く、吟醸酒を貯蔵する前のタンク内の殺菌や、呑みきり時の呑みきり器を消毒することで、原酒の保管中における真性火落菌の混入を防止することができます。


金属腐食について

亜塩素酸水はSUS-304などのステンレスに対する金属腐食が少ないという特徴があります。ただし、塩素酸化物の一種であり強い酸化力を有しているため、磁性を帯びる素材には錆が発生しやすく、この素材を使用している場合は、処理後必ず水洗してください。ただし、火落菌対策として、原酒を保管する貯蔵タンク内の事前殺菌や呑みきり時における各種専用器具類の殺菌、その他、火落菌の混入の可能性が高い環境下でも殺菌効果を発揮します。

亜塩素酸水を用いた火落菌対策

亜塩素酸水は有機塩素化合物を生成することが少なく、塩素酸化物の残臭がほとんどなく、清酒製造環境においても安心して使用することができる塩素酸化物の一つです。ただし、実際の製造現場では殺菌を阻害する有機物等が存在しますので、殺菌濃度をあらかじめ検証しておく必要があります。しかし、これからの清酒の製造における有用な新しい殺菌剤であることに間違いはありません。